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ビフィズス菌摂取による軽度認知障害患者の認知機能改善ならびに脳萎縮進行の抑制効果を確認

2022.06.13  ()
プレスリリースプレスリリースプレスリリース医学研究科

概要

 順天堂大学 大学院医学研究科 ジェロントロジー研究センターの浅岡大介 准教授、大草敏史 特任教授、佐藤信紘 特任教授らは、ビフィズス菌の摂取による軽度認知障害 (MCI: Mild Cognitive Impairment) 患者の認知機能改善および脳萎縮進行の抑制効果を確認しました。同研究グループが軽度認知障害患者に対してビフィズス菌(MCC1274)摂取の介入を行った結果、認知機能のうち見当識*1等の症状改善ならびにMRI画像解析による脳萎縮進行の抑制を確認しました。また、介入前の認知機能スコアを高低別に腸内フローラを比較したところ、認知機能がより低い患者群においてビフィズス菌 (Bifidobacterium)の占有率が低いことも判明しました。この成果は、ビフィズス菌といったプロバイオティクス介入による認知機能改善・脳萎縮進行予防の可能性を示すものです。本論文はJournal of Alzheimer’s Disease誌のオンライン版に2022年5月7日付で公開されました。
本研究成果のポイント
  • 軽度認知障害患者に対し、ビフィズス菌摂取介入のランダム化二重盲検並行群間比較試験*2を実施
  • ビフィズス菌介入群で認知機能改善および脳萎縮進行の抑制を確認、認知機能がより低い患者群でビフィズス菌の占有率が低いことを確認
  • 脳腸相関の観点から、プロバイオティクスによる認知機能改善・脳萎縮進行予防の可能性が示された

背景

超高齢社会のわが国では、現在85歳以上の4人に1人が認知症といわれ、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人の約700万人に急増すると推測されており、社会的な問題となっています。一方、認知症の前段階である軽度認知障害の患者は、現在国内では約400万人いるとされ、世界的には国によって65歳以上の人口の7~42%が軽度認知障害の状態であると推計されています(Petersen ら、J Intern Med 275, 214-228、2014)。そして、軽度認知障害患者のうち、年間10~30%の方が認知症に移行するとされています(2019年6月 厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について」より)。軽度認知障害や認知症に対する有効な治療法がない中、発症予防に注目が集まっており、特に、生活習慣の改善など日常生活の中で実践できる有効な対策が求められています。その中で様々な全身的な疾患と“腸内フローラの異常(dysbiosis)”との関連が報告され、腸内フローラの制御を介した健康維持への期待が高まっており、2002年には順天堂大学(消化器内科)が中心となって、腸内細菌と中枢神経系との相関関係、いわゆる脳腸相関に関する学会を世界に先駆けてわが国で立ち上げました。

内容

本研究では、東京都江東区の高齢者医療の拠点である、順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センターをフィールドとして、軽度認知障害の患者130名を対象とするプラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施し、ビフィズス菌摂取による認知機能、MRI画像診断における脳萎縮度および腸内細菌叢への影響を確認しました。プロバイオティクス試験食品の摂取については、対象者をランダムに2群に分け、ビフィズス菌を200億個含む粉末(スティック)、またはプラセボ粉末(スティック)を1日1スティック、24週間摂取してもらい、認知機能検査(ADAS-Jcog・MMSE)を摂取前と8週間後、16週間後と24週間後の4回実施し、脳萎縮度(頭部MRI(VSRAD))と腸内細菌叢解析(糞便採取)の評価を摂取前と24週間後の2回実施しました。
※認知機能検査:ADAS-Jcog. (Alzheimer‘s Disease Assessment Scale-cognitive component-Japanese version)、MMSE (Mini-Mental State Examination):脳萎縮度:頭部MRI (VSRAD: voxel-based specific regional analysis system for Alzheimer’s Disease):腸内細菌叢解析:糞便採取

研究結果

1.認知機能の評価
ADAS-Jcog.による認知機能検査では、ビフィズス菌の摂取により、プラセボ摂取群と比較して『見当識』と呼ばれる評価項目が有意に改善されていることが明らかになりました(図1)。一方、別の認知機能検査(MMSE)では、認知機能が低い(MMSE<25)サブグループにおいて「時間の見当識」、「文章書字」の項目が有意に改善していることが示されました(図2) 。

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図1 ADAS検査結果
ADAS合計値では群間差は認めなかったが、「見当識」が有意に改善した

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図2 認知機能が低い(MMSE<25)サブグループにおけるMMSE検査結果
MMSE合計値には群間差は認められなかったが、認知機能が低い(MMSE<25)サブグループにおいて「時間の見当識」、「文章書字」が有意に改善した。
2.脳萎縮度評価 (頭部MRI (VBM解析:VSRAD))
認知障害と関連がある脳萎縮の状態を確認するツールとして、大脳萎縮の評価に有用とされているVBM(voxel-based morphometry)解析手段の中から、本研究ではわが国で広く使われているプログラム「VSRAD(ブイエスラド) ※ 」を用いて脳の萎縮の状態を検証しました。
ビフィズス菌の摂取前と摂取24週間後に頭部MRI検査を実施し、脳萎縮の状態を評価した結果、摂取前後の変動値比較では、全脳委縮領域の割合の変動において脳萎縮の進行度合いに両群間で有意差(P=0.0134)が確認され、プラセボ群に比べ、ビフィズス菌摂取群では、脳萎縮の進行が抑制されました(図3)。

画像3

図3 ビフィズス菌摂取又はプラセボ摂取が脳の萎縮に及ぼす影響(変動値群間比較)
摂取前後の変動値比較では、全脳委縮領域の割合の変動において脳萎縮の進行度合いに両群間で有意差(P=0.0134)が確認され、プラセボ群に比べ、ビフィズス菌摂取群では、脳萎縮の進行が抑制されました。
※ 「VSRAD(ブイエスラド)」は、MR装置で得られた脳画像情報をコンピュータ処理して診断支援情報を提供するものであり、被検者のDICOM画像を入力することにより、簡単な操作で健常者との萎縮の度合いを解析をすることができます。
※Digital Imaging and COmmunications in Medicineの略: 様々なメーカーのCT、MRI、画像閲覧装置などの医用画像関連機器間で自由に画像データをやり取りできるデータの記録形式

<参考>
日本神経学会発行「認知症疾患診療ガイドライン2017」 では、MRI検査によって得られる脳局所の萎縮パターンと信号変化の有無の分布は、認知症の鑑別診断に有用であるとされています。右図は株式会社エーザイが作成した図を許可を得て使用しています。

VSRAD

3.認知機能と腸内細菌の関連性
MMSEで認知機能が低い群(MMSE<25)と高い群(MMSE≧25)とでのサブグループ解析を行った結果、認知機能が低い群において、ビフィズス菌の占有率が低いことが確認されました(図4)。

画像4

図4  MMSEで認知機能が高い群(MMSE≧25)と低い群(MMSE<25)のビフィズス菌占有率の違い
認知機能が低い群において、ビフィズス菌(Bifidobacterium)の占有率が有意に低い(P=0.006)ことが判明しました。

今後の展開

ビフィズス菌は、加齢とともに著しく減少することが知られています。今回、そのビフィズス菌摂取によって軽度認知障害(MCI)患者の認知機能が改善することを確認しました。この成果を得て、今後は、腸の環境と脳機能との関連性について、実地医療の視点で確認していきたいと考えています。
例えば、認知機能の低下を招く疾患へのプロバイオティクスの効果や神経疾患と腸内環境の関連性や、プロバイオティクスの作用・効果等についての検証を開始していきたいと考えております。その検証により、今まで治療が難しかった領域について、腸内環境ならびに脳と腸との連関に注目することで、新たな光が見えてくる可能性が考えられます。
順天堂大学は高齢者医療を重要視しており、外来に専門の窓口(長寿いきいきサポート外来)を設置し、対策を早期に行うことにより、フレイル・ロコモ・認知症対策および寝たきり・要介護予防に取り組んでいます。昨年1月には、ジェロントロジー研究センターを本学に設立し、健康寿命延伸の対策拠点として稼働を始めています。また近年、腸内細菌が健康と密接に連関していることが明らかになっており、腸内細菌を含めた腸と脳が機能連関することを意味する“脳腸相関”が注目されていますが、本学では新しい考え方とされる“脳腸相関”についての臨床的社会実装化に取り組んでいます。今後、認知障害やうつ病などの増加する神経精神疾患に、如何に脳腸相関が関与するかなどについて、本学大学院に開設されたジェロントロジー研究センターおよび腸内フローラ研究講座にて、精力的に研究を推進していきたいと考えています。

用語解説

*1 見当識:見当識とは、日付や現在の時刻、場所や周囲の状況、人物の把握などを総合的に判断し、自身が現在置かれている状況を把握し理解する能力のことをいいます。これらの能力が欠如してしまい、さまざまな日常生活を送る中で障害となってしまうと「見当識障害」と診断されます。見当識障害は認知症の症状の1つでもあります。アルツハイマー型認知症の場合、物忘れの次に起こしやすい障害とされています。見当識障害には大きく分けて3つ(時間・場所・ヒト)の障害があります。
 ①今がいつなのか解らなくなる「時間」の見当識障害
 ②どこにいるのか解らなくなる「場所」の見当識障害
 ③誰であるか認識ができない「人」の見当識障害
見当識障害は認知症の中心的な症状である「中核症状」とされています。

*2 ランダム化二重盲検並行群間比較試験:本用語は臨床試験を実施する際の試験デザインを表しています。
ランダム化:無作為化ともいわれ、複数の試験を行う際に作為が入らないように確率論的に試験参加者が割り振ることです。
盲検:評価や解釈に作為が入ることを防ぐため、どの試験参加者がどの条件に参加しているかを非公開とすることで、大別して、1: 試験参加者、2: 医師・医療スタッフなどの介入者、3: 統計解析の実施者の3者が非公開の対象とされます。
このうち、試験参加者と介入者のいずれかが盲検されている場合は単盲検 (single-blinded) 、双方が盲検されている場合は二重盲検 (double-blinded) と呼びます。それぞれの群が並行して実施されます。
群間比較:それぞれの群を比較して行う試験という意味です。従いまして、本試験デザインは、無作為的に試験参加者が割り振られ、試験参加者、介入者ともに盲検化された並行群間比較試験という事になります。

原著論文

本研究はJournal of Alzheimer’s Disease 誌のオンライン版で(2022年5月7日付)先行公開されました。
タイトル: Probiotic Effect of probiotic Bifidobacterium breve in improving cognitive function and preventing brain atrophy in older patients with suspected mild cognitive impairment: Results of a 24-week randomized, double-blind, placebo-controlled trial
タイトル(日本語訳):ビフィズス菌摂取による高齢者の軽度認知障害患者の認知機能改善ならびに脳萎縮進行の抑制効果 - 24週間のランダム化二重盲検並行群間比較試験 -
著者:Daisuke Asaoka1), Jinzhong Xiao2)3), Tsutomu Takeda1), Naotake Yanagisawa4), Takahiro Yamazaki5), Yoichiro Matsubara5), Hideki Sugiyama5), Noemi Endo5), Motoyuki Higa5), Koji Kasanuki5), Yosuke Ichimiya5), Shigeo Koido6), Kazuya Ohno3), Francois Bernier3), Noriko Katsumata2)3), Akihito Nagahara7), Heii Arai8), Toshifumi Ohkusa2) 6), Nobuhiro Sato2)
著者(日本語表記):浅岡大介1)、清水金忠2)3)、竹田務1)、柳澤尚武4)、山﨑貴弘5)、松原洋一郎5) 、杉山秀樹5) 、遠藤野惠美5)、比賀雅行5)、笠貫浩史5)、一宮洋介5)、小井戸薫雄6)、大野和也3)、Francois Bernier3)、勝又紀子2)3) 、永原章仁7) 、 新井平伊8) 、大草敏史2)6) 、佐藤信紘2)
著者所属:1)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 消化器内科、2)順天堂大学大学院 腸内フローラ研究講座、3)森永乳業株式会社基礎研究所、4)順天堂大学 革新的医療技術開発研究センター 臨床研究支援センター、5)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター メンタルクリニック、6)東京慈恵会医科大学附属柏病院 消化器・肝臓内科、7)順天堂大学 消化器内科、8)アルツクリニック東京
DOI:10.3233/JAD-220148
なお、本研究はJSPS科研費JP19K11724を基に実施されました。
本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。