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乳児の腸内ビフィズス菌の占有率は年上のきょうだいがいると高い

2021.04.13  ()
プレスリリースプレスリリースプレスリリース医学研究科

~ 日本人乳児の腸内細菌叢に影響を及ぼす各種因子の研究から ~

順天堂大学大学院医学研究科マイクロバイオーム研究講座の井本成昭 非常勤助教、渡邉 心 准教授らの研究グループはアサヒクオリティーアンドイノベーションズ(株)コアテクノロジー研究所、岩手県立磐井病院小児科・新生児科との共同研究により、日本人の乳児における腸内ビフィズス菌の占有率には「年上のきょうだいの有無」が大きく関与していることを明らかにしました。研究グループは、生後6か月までの乳児の腸内細菌に関する大規模な追跡調査を行い、出生前後における様々な要因について複合的な解析を行いました。その結果、腸内ビフィズス菌の占有率は、①分娩直前に母体への抗菌薬投与があった群では低いものの成長に伴ってその割合が回復すること、②年上のきょうだいの存在により高くなること、③ビフィズス菌に次いで主要な腸内細菌の一つであるバクテロイデス菌の占有率は帝王切開群で低く経膣分娩群では高いことを示しました。本成果は小児のアレルギー疾患など様々な疾患の発症に関係しているとされる、離乳期までの乳児における腸管内へのビフィズス菌やバクテロイデス菌の定着に関して新たな知見を与えるものであり、近年大きく注目されている腸内細菌と疾患発症の関係を解明する上で、重要なヒントを示しました。本研究は、Nature系列の英科学雑誌「Scientific Reports」の電子版に公開されました。
本研究成果のポイント
  • 生後1か月児の腸内細菌叢におけるビフィズス菌の占有率は、分娩時に母体への抗菌薬投与があった群では非投与群に比べ有意に低下していたが、成長に伴ってその差が消失していた。
  • 1か月児および3か月児のビフィズス菌の占有率は、年上のきょうだいがいる群において、いない群に比べ有意に高く、ビフィズス菌の定着が促されている可能性がある。
  • バクテロイデス菌の占有率は、帝王切開群で低く、経膣分娩群では高いことから、分娩方式の違いが菌の占有率に影響することが明らかになった。

背景

ヒトの腸管内には100~1000兆個もの細菌が定着しており「腸内フローラ(腸内細菌叢)*1」と呼ばれています。細菌叢とヒトの健康との関わりについては、乳児の生後6か月間における腸内細菌の菌種の割合(占有率)や定着が、将来的なアレルギーなどの疾患の発症に影響を及ぼす可能性が示唆されています。特に、アレルギー性疾患に関与しているとされるビフィズス菌の占有率や定着には、分娩様式(自然分娩、帝王切開)、栄養(母乳、ミルク)、などの因子が影響すると考えられていますが、その詳細は明らかになっていません。
また、分娩時には母子の感染予防のため母体に抗菌薬が投与されることがありますが、抗菌薬投与が乳児の腸内細菌叢に与える影響について、これまで国内外での報告はほとんどありませんでした。私たちの研究グループは、2016年に行った先行研究で分娩直前の母体への抗菌薬投与により生後1か月の乳児では腸内におけるビフィズス菌の占有率が低下することを明らかにしました。今回の研究では、先行研究より対象乳児を増やし、乳児の成長に伴う腸内細菌叢の変化と様々な因子の影響を明らかにすることを目的に大規模な追跡調査を行いました。

内容

本研究では、2018年の2月から2019年3月までの13ヶ月間、岩手県立磐井病院で出産した142名の母親及びその乳児を対象とした前向きコホート研究を行いました。各乳児における腸内細菌叢の多様性(種類の違い、菌数の違い)や、各菌種の占有率について、次世代シーケンサー *2を用いて調べました。その結果、母体への抗菌薬投与が行われた群において、ビフィズス菌の占有率は、生後1ヶ月の時点で有意に低下していましたが、乳児の成長に伴いその差は消失していくことがわかりました(図1)。

図1

図1 生後1か月から6か月までの乳児のビフィズス菌の占有率の変化(分娩時の抗菌薬投与の有無での比較)
分娩時、母体に抗菌薬の投与があった乳児では、投与されていない乳児に比べて生後1か月の時点で腸内のビフィズス菌の占有率は低いが、6か月になるまでにその差は消失していた。
腸内細菌叢の多様性の比較においては、生後1ヶ月と3ヶ月の時点で抗菌薬投与群と非投与群の比較において明確に異なることが確認されました。また、年上のきょうだいがいる群においては、いない群に比べてビフィズス菌の占有率は生後1ヶ月および3ヶ月の時点で有意に高いことがわかりました(図2)。その一方、バクテロイデス菌の占有率は帝王切開群で低く、経膣分娩群では高いことが確認されました。この差は徐々に小さくなるものの、生後6か月まで継続するという結果が得られました(図3) 。

図2

図2 きょうだいの有無による乳児腸内のビフィズス菌占有率の違い
きょうだいがいる乳児では、いない乳児に比べて生後1か月と3か月の時点でビフィズス菌の占有率が有意に高かった。

図3

図3 生後1か月から6か月までの乳児のバクテロイデス菌の占有率の変化(分娩様式での比較)
帝王切開で出生した乳児では、自然分娩で出生した乳児に比べて生後1か月の時点で腸内のバクテロイデス菌の占有率は低く、この差は徐々に小さくなるものの、生後6か月まで継続していた。
以上の結果から、乳児の腸内ビフィズス菌の占有率は、母体への分娩直前の血中への抗菌薬投与によって低下するが、成長に伴って抗菌薬非投与群と同等になっていくことが示されました。また、きょうだいの存在も同時にビフィズス菌の占有率に影響を与えており、少なくとも生後3か月までの間は、分娩時に抗菌薬曝露を受けた乳児でも年上のきょうだいがいることによってビフィズス菌の定着が促されている可能性、つまり、きょうだい間で腸内細菌の相互干渉がある可能性が示されました。また、分娩方式の違いはビフィズス菌に次いで主要な腸内細菌の一つであるバクテロイデス菌の占有率に影響することが示されました。

今後の展開

本研究は今まで不明であった日本人の早期乳児期の腸内細菌叢において最も大きな比率を占めるビフィズス菌に影響を及ぼす重要な因子として、分娩時の抗菌薬の投与や、年上のきょうだいの有無による影響の大きさを初めて示しました。また、分娩方式がバクテロイデス菌の占有率に影響を及ぼす因子であることも明らかにしました。帝王切開での分娩は必ず抗菌薬が投与されることから、バクテロイデス菌の占有率に影響を与えているのが抗菌薬の種類の違いなのか、分娩様式そのものの違いなのかを明らかにするには更なる研究が必要です。離乳期までの腸内へのビフィズス菌の定着はその後アレルギー疾患などの発症との関連性も指摘されていることから、本研究の結果が乳児のその後の健康面においてどのような臨床的意義があるのかを明らかにするため、今後も共同研究施設の協力の下、研究を継続していきます。

用語解説

*1 腸内フローラ:ヒトの腸管には1000種類以上の細菌が密に生息しており、その数は100兆個とも1000兆個とも言われ、ヒトの体の全細胞数よりも多いことがわかっています。その様子を花畑(フローラ)に例え、「腸内フローラ」と呼ばれています。その無数の細菌群が宿主との共生の中で相互に影響を及ぼし合い、ヒトの体の健康維持に深く関係していると考えられており、近年、大きく注目されています。
*2 次世代シーケンサー: 2000年代に開発された、遺伝子の配列を高速で読み取ることができる装置です。これまで培養で時間をかけて調べていた腸内細菌を、網羅的に、より短時間に解析することが可能になりました。この技術的な進歩によって、腸内フローラの研究がさらに盛んになりました。

原著論文

本研究は、Nature Publishing Groupの電子版雑誌「Scientific Reports」(https://www.nature.com/srep/)で2021年3月18日に公開されました。
論文タイトル:Administration of β-lactam antibiotics and delivery method correlate with intestinal abundances of Bifidobacteria and Bacteroides in early infancy, in Japan
日本語訳:βラクタム系抗菌薬と分娩様式は、日本人の早期乳児のビフィズス菌とバクテロイデスの占有率に関連する
著者:Naruaki Imoto(1), Chie Kano(2), Yumi Aoyagi(2), Hiroto Morita(2), Fumitaka Amanuma(3), Hidekazu Maruyama(3), Shuko Nojiri(1), Naoyuki Hashiguchi(1), Shin Watanabe(1)
著者(日本語表記): 井本成昭、狩野智恵、青柳有美、森田寛人、天沼史孝、丸山秀和、橋口尚幸、渡邉心
所属: (1)順天堂大学、(2)アサヒグループホールディングス株式会社コアテクノロジー研究所、(3)岩手県立磐井病院
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-021-85670-z
なお、本研究は順天堂大学とアサヒグループホールディングス株式会社コアテクノロジー研究所および岩手県立磐井病院小児科・新生児科との共同研究として実施されました。
また、本研究に協力頂きました参加者様のご厚意に深謝いたします。

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