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電子顕微鏡像の3D再構築技術により糸球体内皮細胞の正常構造を完全解明

2021.03.15  ()
プレスリリースプレスリリースプレスリリース医学研究科

~ 慢性腎臓病の原因となる糸球体内皮細胞傷害のメカニズム解明と診断法確立へ ~

順天堂大学大学院医学研究科 解剖学・生体構造科学の川崎優人 大学院生、市村浩一郎 教授らの研究グループは、複雑な構造をもつ細胞の断面画像を連続撮影可能な電子顕微鏡(FIB-SEM*1)と高精度な3D再構築技術を活用することにより、複雑な構造をもつ糸球体内皮細胞*2の正常構造を完全に解明することに成功しました。本成果は、慢性腎臓病の原因となる糸球体疾患における糸球体内皮細胞傷害*3のメカニズムを解明し、その診断法を確立するうえで基盤となる重要な知見です。また、内皮細胞の形態評価にFIB-SEMが極めて有用なアプローチであることも実証されました。本研究は国際学術誌 Frontiers in Cell and Developmental Biologyに2021年3月11日付で掲載されました。
本研究成果のポイント
  • FIB-SEMを活用し、糸球体内皮細胞の高精細な3D再構築像の作製に成功
  • 再構築像は任意の方向から観察でき、これまで分かっていなかった糸球体内皮細胞の正常構造を完全に解明
  • 正常構造の理解は、糸球体内皮細胞傷害のメカニズム解明や病理診断開発の基盤となる

背景

慢性腎臓病は腎臓の糸球体内皮細胞(以下:内皮細胞と表記)などの傷害が原因で発症し、糸球体で血液を濾過して尿を作る機能が徐々に損なわれる疾患です。内皮細胞は糸球体の中で毛細血管を形成しており、血液濾過を効率よく行うために、無数の穴を持つなどのユニークな構造を取ることが分かっています。しかし、その複雑な構造から、従来の電子顕微鏡では、内皮細胞の特定の部位しか観察できず、立体構造や周辺細胞との関連についてはほとんど分かっていませんでした。最近、FIB-SEMに代表される電子顕微鏡により、連続断面画像を撮影し、これらから特定の細胞を抽出して重ね合わせることで、高精細な立体構築像を再現できるようになりました。今回研究グループは、内皮細胞の正常構造を明らかにすることを目的に、FIB-SEMで撮影したラットの内皮細胞を3D再構成し、その構造の解析を行いました。

内容

本研究では、まずラットの腎臓の糸球体をFIB-SEMで撮影しました。そして内皮細胞の連続断面像(約1000枚)から、特定の内皮細胞を抽出し、高精細な立体再構築像を作製しました。従来の走査型電子顕微鏡(SEM)では、血管が複雑に入り組んでいるため、内皮細胞を部分的にしか観察できませんでしたが、FIB-SEMで撮影した連続断面像から再構築した内皮細胞では、同一細胞をあらゆる方向から詳細に観察することを可能にしました(図1)。

図1

図1 再構築像は糸球体内皮細胞をあらゆる方向から観察できる
(A)シームレス型の内皮細胞の全体像、従来の走査電顕では観察できない細胞の外側面を見ることができる。(B、C)Aで示した内皮細胞を縦に2分割し、内側面をみている。 メサンギウム細胞と接する部位は濾過に関与しないので、背骨となる太い「骨組み部」が位置する(*)。
再構築像の観察から、内皮細胞は細胞核を含む「細胞体」、扁平な内皮細胞を支える「骨組み部」、多数の穴が見られる「穴開き部」からなることが明らかになりました。多くの内皮細胞は細胞単一で毛細血管の筒を作っており、そのでき方に2つの様式(シームレス型と自己結合型)があることも分かりました(図2、3)。さらに、内皮細胞と隣接している血管支持細胞(メサンギウム細胞*4)から伸びる「マッシュルーム状突起」が内皮細胞を貫通して、糸球体毛細血管内に多数入り込んでいることが判明しました(図4)。このような貫通現象は半世紀にわたり真偽がはっきりしないままでしたが、本研究によりその実在が示されました。
以上の結果から、FIB-SEM を活用することにより、従来の電子顕微鏡ではよく分からなかった内皮細胞の3D構造を詳細に解明できました。この内皮細胞の正常構造の理解は、糸球体内皮細胞傷害のメカニズム解明や病理診断開発につながることが期待されます。

図2

図2 糸球体内皮細胞は単独で血管のチューブを形成する
チューブの形成様式に二つのタイプがあることが分かった。大部分の糸球体内皮細胞はシームレス型であった(左)。一部の内皮細胞は自己細胞間結合により血管を形成する(右)。

図3

図3 糸球体内皮細胞の自己細胞間結合
紫色の内皮細胞が自己細胞間結合(矢印)により毛細血管のチューブを形成している。(A)全体像と断面図を重ね合わせたもの、(B)Aで示した断面図、(C, D)Aを縦に分割し、自己細胞間結合の内側面(C)と外側面(D)を示している。

図4

図4 メサンギウム細胞は内皮細胞を貫き血管内に突起を伸ばしている
メサンギウム細胞(紫色)のマッシュルーム状突起(矢印)が糸球体内皮細胞(緑色)を貫いて血管の内部に入り込んでいる。マッシュルーム状突起の根元が内皮細胞の巨大な穴を通り抜ける。(A)模式図、(B)断面図、(C, D)再構築像。

今後の展開

特定の腎疾患では、内皮細胞が穴あき構造を失うなどの変化をきたすことが、内皮細胞がダメージを受けていることを示す指標と考えられています。本研究の成果は、FIB-SEMと高精度立体再構築を併用したアプローチが腎疾患における内皮細胞傷害の病理診断にも有用であることを示しており、今後は臨床現場での本アプローチの活用が期待されます。
また、メサンギウム細胞のマッシュルーム状突起の機能は今のところ全く分かっておらず、その解明が待たれるところです。なお、マッシュルーム状突起の根元はかなり細いことから、突起がちぎれて、血管内を流れていき、他の遠隔臓器へ影響を及ぼしている(臓器連関*5に関与している)可能性が大いに考えられます。この点についても、本研究の手法を用いて明らかにしたいと考えています。

用語解説

*1 FIB-SEM
標本の切削と撮影を自動で行い、細胞の断面像を連続して得ることができる集束イオンビーム(FIB)走査型電子顕微鏡(SEM)。連続断面像から特定の構造を抽出して立体的な再構築像を作製できる。
 
*2 糸球体内皮細胞
腎臓の糸球体にある毛細血管を作る細胞。糸球体では大量の血液濾過を行い、尿を産生している。効率の良く血液濾過を行うため、糸球体内皮細胞には無数の穴が開いている。

*3 糸球体内皮細胞傷害
特定の糸球体疾患(溶血性尿毒症症候群、腎移植後障害など)で見られ、進行すると糸球体機能の破綻につながる重篤な病態

*4 メサンギウム細胞
糸球体の構造を支える細胞。糸球体の内部には比較的高い内圧(50 mmHg)がかかっており、これが濾過の駆動力となっている。メサンギウム細胞は糸球体の壁を内側から引っ張り、高い内圧により糸球体が膨張しすぎないように働いている。

*5 臓器連関
離れた臓器(たとえば、腎臓と心臓)がお互いに影響を及ぼしあう現象。様々な疾患の発症と関係している。

原著論文

本研究は Frontiers in Cell and Developmental Biology  に2021年3月11日付で掲載されました。
タイトル: Three-Dimensional Architecture of Glomerular Endothelial Cells Revealed by FIB-SEM Tomography
タイトル(日本語表記): FIB-SEM トモグラフィーで明らかにした糸球体内皮細胞の3D微細形態
著者: Kawasaki Y, Hosoyamada Y, Miyaki T, Yamaguchi J, Kakuta S, Sakai T, Ichimura K
著者(日本語表記): 川崎優人1、細山田康恵1、宮木貴之1、山口隼司2、角田宗一郎2、坂井建雄1、市村浩一郎1,2
所属: 順天堂大学大学院医学研究科 解剖学・生体構造科学1、形態解析イメージング研究室2
DOI: 10.3389/fcell.2021.653472
リンク先: https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcell.2021.653472/full
本研究は文部科学省科学研究費補助金(JSPS科研費 JP15K18960, JP17K08521)の支援を受け実施されました。

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